焼き入れ

焼き入れをすることのよって刃が硬くなり、さらに日本刀を鑑賞する際の重要なポイントである「刃文」が見られ、「反り」が発生する。まさに刀に命を吹き込むような作業だ。それに反して失敗した場合、「焼き割れ」という刀身にひび割れが入った状態となり、そのような状況では命が吹き込まれず、いままでの思い入れや刀身はパーとなってしまう。このような特別な焼き入れを行う時、刀匠は神棚に柏手をうち、身を清めて成功を祈るものだ。「ひのき:または、「焼き船」と呼ばれ、焼いた万身を水(ぬるま湯)で冷ますための槍の水槽は、縁起をかつぐため、割れることはない。数字の「七尺」で誂える刀匠も多いと聞く。焼き入れを行う時刻は主に夜、すべての明かりを消灯した後実行される。焼いた刀身が赤く変色した微妙な火加減を見逃さないようにするためだ。全体が熱をおびて、瞬間を見極めて火から出し、焼き船にいれて急冷する。この時ぬるま湯となった温度がとても重要で、焼き割れてしまう原因と刃の硬さにも大きな影響を与えることから、一子相伝の極秘とされる。師匠の目が届かないうちに湯船に手を突っ込み、そのときの温度を体感した弟子が、師匠によって腕を切り落とされたという伝説もある。焼き入れによって、日本刀に命を吹き込むが、まだ完成には至っていない。茎にやすりや鋸をかけ、銘を切り、刀匠の手を離れて研ぎの工程に入って、地は青黒く、刃は白く研ぎ、棟と鏑地に光沢を施し、鋒を完成させる。自分自身の経験と勘に頼って一寸のくるいも生じず問で行く技術には、誰もが驚いてしまう。日本刀の研ぎ方は、切れ味に加えて、美的な調和をより高度に磨いていく作業である。白銀師、輸師、柄巻師、郵師、塗師の順に、それぞれの匠の技により、万装小道具 (刀剣を携帯し、使用を容易にする付属物)としての役割が与えられ、ようやく一本の日本刀として完成できる。