鍛錬という言葉は、子どものころ身の回りで使われていたと思います。それは、心と体を鍛錬することによって、どんなことでも成し遂げられるというような意味で使われます。そして、鍛錬する代表が日本刀で、日本刀のすばらしさは、この鍛錬によるものです。また、日本刀は繰り返される鍛錬によって、含まれる不純物を叩き出すことができ、純度が高くより良い鉄の刀になるという意味でもあるそうです。
日本刀を作るときに、鍛錬という言葉を好んで使った人間国宝のある刀工がいます。その刀工は、まず下鍛えとして、玉鋼・卸鉄・包丁鉄を数回ずつ鍛え、次に上鍛えとして三種類の鉄を適切に混ぜていき、数回ほど折り返し鍛錬して皮鉄を作るそうです。そして、出来た三種類の刃鉄・皮鉄・心鉄を組み合わせることによって、とても時間をかけてようやく一腰が出来上がるそうです。この方式では、いったい何枚の層になっているかもわからないほど、鉄が鍛錬されています。これほどの労力を要する方式でやるのは、心も良く鍛錬したからだと考えられます。
また、別の人間国宝である刀工は、ある日本刀を作るうえで鉄を二十数回も折り返し鍛錬していたそうです。また、その刀工は、鉄を鍛錬するときは二十回ぐらいにとても柔らかくなって、その後は堅くなっていくと語っていたそうです。鉄が柔らかくなるのは炭を上手く取り除けたからで、硬くなるのは逆に炭が浸透していくからだそうです。鉄を炉に入れてから折り返し鍛錬をして、その鉄に含まれる炭素の量を自由自在に、抜いたり増やしたり出来ることはとても技術がいることです。
また、ある有名な刀工は、数百という鍛錬をしたことで有名です。しかし、その刀工は、折り返しの鍛錬は鉄によって臨機応変に変えるべきという言葉を残しています。